よくクリックされる広告が、いい広告とは限らない。数字と気持ちで測る
結論
広告の良し悪しは、クリックのような途中の数字ではなく、事業の目的に近い数字で決まります。そして、その数字が動いた理由は、数字の裏にある人の気持ちを読まないと分かりません。
- 支援している矯正歯科では、クリック率が約7%の月より約1%の月のほうが、予約が約2.8倍多かった
- 途中の数字だけを追うと、興味本位で押す人を集める広告が「いい広告」に見えてしまう
- 数字で判断することは組織を強くする。ただ、数字の裏にある気持ちまで読めて、はじめて他社と差がつく
約7%→約1%
クリック率(8月→9月)
約2.8倍
同じ期間の予約数
最大30%
LUCRA・グノシーで改善した継続率
広告の数字を毎日見ていると、つい「よく押される広告」をいい広告だと思ってしまいます。クリック率が上がれば手応えがあるし、クリック単価が下がれば効率がよくなったように見える。
けれど、私がこれまでの仕事でいちばん多く見てきた失敗は、よくクリックされる広告を、いい広告だと思い込むことでした。
この記事では、最近支援している案件で実際に起きたことと、Gunosyで年間約20億円の広告予算を運用してきた中で学んだことをもとに、広告の効果をどう測るかを書きます。
クリック率が下がった月に、予約が約2.8倍になった
私が支援に関わっている都内の矯正歯科では、新規の相談予約を増やすためにInstagramやFacebookの広告(Meta広告)を運用しています。運用を始めてからの3か月で、次のようなことが起きました。
| 7月 | 8月 | 9月 | |
|---|---|---|---|
| クリック率 | 約1% | 約7% | 約1% |
| 予約 | 0件 | 4件 | 11件 |
| 予約1件あたりの広告費 | — | 約10万円 | 4万円台 |
8月はクリック率が約7%と、ほかの月の6倍以上に跳ね上がりました。ところが予約は4件にとどまっています。9月はクリック率が約1%に戻ったのに、予約は8月の約2.8倍の11件になり、予約1件あたりの広告費は半分以下になりました。
9月に変えたのは、キャンペーンの期限をはっきり示した画像の広告に切り替えたことです。切り替えてからの2週間で、月の予約11件のうち10件が入りました。詳しい経緯は、運営元のメディアで3か月の記録として公開しています。
途中の数字は「誰が押したか」を教えてくれない
なぜこんなことが起きるのか。数字の裏にいる人を想像すると、説明がつきます。
8月の広告は、目を引く内容でした。だから多くの人が押しました。ただ、押した人の多くは「ちょっと気になった」人で、矯正の相談を今すぐ予約しようとしている人ではなかった。9月の広告は、期限があることを伝えたので、押す人は減りました。そのかわり、押した人の多くは「今月のうちに相談しよう」と考えていた人でした。
クリックは、興味の数。予約は、決心の数。
クリック率は、広告が「どれだけ人の目を引いたか」を示す数字です。「どれだけ決心した人を連れてきたか」は教えてくれません。強い言葉や刺激の強い画像で押させた広告は、クリック率は上がっても、押した人をがっかりさせ、ブランドへの印象を悪くすることさえあります。
目的に近い数字で、広告を評価し直す
この考え方を最初に体で覚えたのは、新卒で入ったGunosyでした。女性向けアプリ「LUCRA」と、ニュースアプリ「グノシー」の新規ユーザー獲得を担当し、広告の8割は社内で運用していました。クリエイティブの企画から、入稿、毎日の運用の調整までを、チームで一気通貫で回していた時期です。
アプリの広告は、インストール1件あたりの単価で評価されがちです。けれど、インストールしてすぐにやめてしまう人を安く集めても、事業には残りません。そこで、どれだけ長く使い続けてくれるか(継続率)と、その人がどれだけ収益を生むかまで含めて、広告を評価する仕組みをつくりました。
分析チームに頼っていては判断が遅れるので、SQLを独学で覚え、生のデータを自分で引いて毎日判断していました。書いたクエリは100本を超え、ユーザーが将来どれだけ収益を生むかを予測するモデル(LTVの予測モデル)も自分でつくっています。
その結果、継続率は最大30%、収益性(IRR)も最大30%改善しました。評価する数字を、事業の目的に近いところまで下げたことで、残ってくれる人を連れてくる広告に予算を寄せられるようになりました。LTVの考え方は、LTVとはで詳しく書く予定です。
数字だけでも、気持ちだけでも足りない
ここまで読むと、「結局、正しい数字を見ればいい」という話に聞こえるかもしれません。半分は正しいと思っています。数字をもとに話し、数字で意思決定することは、組織を確実に強くします。
ただ、数字は何が起きたかを教えてくれても、なぜ起きたかは教えてくれません。矯正歯科の9月の数字も、「期限があると、今月中に決めたい人が動く」という気持ちの仮説があって、はじめて次の打ち手につながりました。
私は、数字の裏にある熱量や気持ちのことを、勝手に「エモ」と呼んでいます。数字だけで判断する会社は、同じデータを持つ競合と同じ答えにたどり着きます。差がつくのは、数字の裏にある気持ちまで読めたときです。だから、どちらかを選ぶのではなく、どちらも強く持ち続けることが要ると考えています。
広告の効果を測るときの3つの確認
最後に、広告の数字を見るときに、私が毎回確認していることをまとめます。
- 最終的に評価する数字を、先に決めているか:予約、契約、継続して使う人の数など、事業の目的に最も近いもの
- 途中の数字と並べて見ているか:クリック率が上がったとき、その先の数字も上がっているか
- 数字が動いた理由を、人の気持ちで説明できるか:「どんな人が、どんな気持ちで押したのか」を一文で言えるか
3つ目が言えないときは、数字が良くても悪くても、まだ次の打ち手を決めないようにしています。理由が分からないまま続けた施策は、たまたま当たっていただけで、どこかで必ず崩れるからです。
よくある問い
広告の効果測定では、何を見ればいいですか?
事業の目的に最も近い数字を、最終的な判断の基準にします。予約や契約、継続して使ってくれる人の数などです。クリック率やクリック単価は、原因を探すための途中の数字として使います。
クリック率が高い広告は、悪い広告なのですか?
悪いとは限りません。ただ、クリック率が高くても、その先の予約や購入が増えていなければ、興味本位で押す人を集めているだけの可能性があります。途中の数字と、目的に近い数字を必ず並べて見ます。
数字を見ているのに、なぜ「気持ち」が必要なのですか?
数字は何が起きたかを教えてくれますが、なぜ起きたかまでは教えてくれないからです。どんな人が、どんな気持ちで押したのかを考えないと、次に何を変えればいいかが決まりません。
出典
