chapter 02 / 人を見る

インサイトとは:マーケティングのセンスは「人を見た量」でつくられる

結論

インサイトとは、本人もまだ言葉にしていない、行動の本当の理由のことです。それを見つけるセンスは生まれつきではなく、人をどこまで見て、理解しようとしてきたかでつくられます。

  • マーケティングの天才とは、誰にも見つけられていない市場(ターゲット)を見つけ出せる人。その力の正体は「人を見ている量」
  • センスは後天的なもので、時間さえかければ誰でも身につけられる。ただし、見ただけでは足りず、言葉にすることが要る
  • 観察する、仮説を立てる、確かめる、言葉にする。この4つを日常で繰り返すことが、いちばん確実な鍛え方

インサイトという言葉は、マーケティングの会議でよく使われます。辞書的には「洞察」、マーケティングの文脈では「消費者の本音」や「購買の隠れた動機」と説明されることが多い言葉です。

私はもう少し踏み込んで、こう捉えています。インサイトとは、本人もまだ言葉にしていない、行動の本当の理由。そして、それを見つけるセンスは、生まれつきではありません。

この記事では、そう考えるようになったきっかけと、そのセンスをどう鍛えるかを書きます。

「野崎さんって、朝起きて布団を直すタイプですよね」

以前一緒に働いていた学生インターンの女性に、ある日こう言われました。

「野崎さんって、朝起きたら絶対に布団を直すタイプですよね」

実際、私にはその癖がありました。言い当てられたこと自体にも驚きましたが、それ以上に驚いたのは、彼女の頭の中に「朝いちばんに布団を直す人」という市場が存在していたことです。そして、その市場の人がどんな話し方をし、どんな働き方をするのかまで理解していたから、私の癖を見抜けたのだと思います。

なぜそう思ったのかを、彼女は説明できなかったかもしれません。100人中100人が納得できる理屈でもない。それでも、誰も名前をつけていない人の集まりを見つけ、その人たちを深く理解している。マーケティングで求められているのは、まさにこの力です。

マーケティングの天才は、まだ誰も見つけていない市場を見つける

どの領域にも、天才と呼ばれる人が一定数います。マーケティングの天才とは、誰にも見つけられていない市場(ターゲット)を見つけ出せる人だと私は考えています。

マーケティング戦略とはで書いたとおり、戦略の差はほぼすべて市場の切り取り方で生まれます。性別や年齢のように誰でも思いつく切り方ではなく、「朝いちばんに布団を直す人」のような、誰も切っていない切り方を見つけられるかどうか。インサイトとは、その切り方の手がかりになるものです。

私自身も、あのインターン生も、天才の域ではありません。ただ、そういう人が一定数いて、その人たちがやっていることを分解すると、特別なことをしているわけではない、とも思っています。

センスの正体は「人をどこまで見ているか」

マーケティングのセンスや感性は、後天的なものです。時間をかけさえすれば、努力で誰でも獲得できると考えています。

その正体はシンプルで、人をどこまで見ているか、理解しているか、理解しようとしているかです。

センスは、人を見た量で決まる。

新卒でLUCRAという女性向けアプリを担当したとき、私はコスメにもファッションにも詳しくありませんでした。ファッション誌を片っ端から読み、話を聞きに行き、当時流行っていたタピオカを飲み歩きました。最初から分かっていたわけではなく、分からないから見に行った。広告の判断に少しずつ自信が持てるようになったのは、見た量が増えてからでした。

見るだけでは足りない。言葉にする

ここで一つ、大事な条件があります。人を見ているだけでは、センスにはなりません。

マーケティングのチームに人を採用するとき、私は必ず「他者にどこまで意識を向け、気を遣って生きてきたか」を見ています。人の機嫌や場の空気に、神経をすり減らすほど敏感な人は少なくありません。ただ、それだけで終わってしまうと、本人が疲れていくだけです。

私が一緒に働きたいと思うのは、その敏感さを言葉にしてきた人です。なぜあの人はああいう反応をしたのか。自分はなぜ疲れたのか。神経を尖らせたうえで、それを抽象化し、体系化してきた人は、見たものを他の人にも使える形にできます。

インサイトは、言葉になってはじめてチームで使えるものになります。「なんとなく分かる」を「こういう人は、こういう理由でこう動く」と言えるかどうか。ここがセンスのある人とない人の、本当の分かれ目だと思います。採用で見ている点は、マーケティングに向いてる人でも詳しく書く予定です。

インサイトを見つける力の鍛え方

特別な訓練は要りません。日常の中で、次の4つを繰り返すだけです。

手順やること例
観察する人の行動を、評価せずに見る同僚が会議の前に必ず資料を印刷している
仮説を立てる「この人は〇〇なタイプだ」と名前をつける「手元に形がないと不安なタイプ」
確かめる本人に聞く、ほかの場面でも同じか見る旅行の前にも紙の地図を用意しているか
言葉にするなぜそう思ったのかを、他人に説明できる形で書く「判断の前に、全体を一望できる状態を求める人」

最後の「言葉にする」まで行ったものが、仕事で使えるインサイトの候補です。仮説が外れることも多いですが、外れた理由を考えることも、人を見る量を増やしてくれます。

インサイトは、会議室で資料を読んでいても見つかりません。人を見に行くこと、見たものを言葉にすること。その積み重ねが、まだ誰も見つけていない市場につながっていきます。

よくある問い

インサイトとニーズの違いは何ですか?

ニーズは「これが欲しい」と本人が言葉にできるもの、インサイトは本人もまだ言葉にしていない行動の理由だと捉えています。アンケートで聞けるのは前者で、後者は人の行動をよく見ることでしか見えてきません。

マーケティングのセンスは、才能ではないのですか?

一部に天才と呼べる人がいるのは確かですが、多くの場合、センスの正体は人をどこまで見て、理解しようとしてきたかだと考えています。だから後から身につけられますし、時間をかければ誰でも獲得できます。

インサイトを見つける力は、どう鍛えればいいですか?

身近な人を観察して「この人は〇〇なタイプだ」と仮説を立て、確かめ、なぜそう思ったのかを言葉にする。これを日常で繰り返すのが確実です。見るだけで終わらせず、言葉にすることが大事です。

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