chapter 01 / 市場を定義する

マーケティング戦略とは:市場の「切り出し」と「理解」で決まる

結論

マーケティング戦略とは、どの市場(=ターゲット)で戦うかを決めることです。その中身は、市場を切り出すことと、切り出した人を深く理解すること。この2つは互いに支え合っていて、片方だけでは戦略になりません。

  • 市場を切り出すとは、大きな市場をいくつもの角度で切り落とし、最後に残った人をターゲットにすること
  • 切り出しただけでは意思決定できない。その人がどこで何を見て、何を買うのかまで理解して、はじめて打ち手が決まる
  • オンライン広告では届かなかった企業層に、地方新聞社と組むことで入り込み、十数社の新規獲得につながった

十数社

地方新聞社との座組から生まれた、中堅規模の企業の新規獲得

2つ

戦略を成り立たせる行為(切り出し・理解)

「マーケティング戦略を立ててほしい」と言われたとき、多くの資料では、3Cや4P、STPといったフレームワークの表が埋められています。それ自体は悪くないのですが、表がきれいに埋まっていても、何も決まっていない資料をたくさん見てきました。

私の考えでは、マーケティング戦略とはどの市場(=ターゲット)で戦うかを決めることです。そしてその中身は、2つの行為に分けられます。

  1. 市場の切り出し
  2. 切り出した人への深い理解

この記事では、この2つが何を指すのか、なぜ片方だけでは戦略にならないのかを、私が担当した事例とともに書きます。マーケティングそのものの定義は、マーケティングとはにまとめています。

1つ目の行為:市場を切り出す

市場は、巨大な塊のようなものです。それをいくつもの角度から切り落としていき、最後に残ったものがターゲットになります。

たとえば、性別という角度で男性を切り落とし、年齢という角度で30歳以上を切り落とすと、「20代以下の女性」が残ります。ここまでは、どんな教科書にも書いてあるセグメンテーションの考え方です。

差が出るのは、どの角度で切るかです。性別や年齢のように誰でも思いつく角度で切ると、競合も同じ人を狙っています。誰も切っていない角度を見つけられると、まだ誰も本気で向き合っていない市場が残ります。

2つ目の行為:切り出した人を理解する

切り出しただけでは、戦略は完成しません。「20代以下の女性」と言われても、具体的な顔が浮かばなければ、広告の一枚も決められないからです。

  • Instagramをよく見ている
  • 服は特定のお店で買うことが多い
  • コスメへの関心が高い
  • 流行りの飲み物を友達と飲みに行く

このくらいの解像度があって、はじめて「どこで、何を、どう伝えるか」を決められます。

私が新卒で女性向けアプリ「LUCRA」を担当したとき、コスメにもファッションにも詳しくありませんでした。ファッション誌を片っ端から読み、話を聞きに行き、当時流行っていたタピオカも飲み歩きました。理解が追いつかないうちは、広告の判断にも自信が持てなかったからです。

2つは互いに支え合っている

ここが一番伝えたいところです。切り出しと理解は、順番に片づける工程ではありません。

  • 市場を理解していなければ、どの角度で切ればいいかが見つからない
  • 切り方が決まっていなければ、誰を理解すればいいかも決まらない

だから実際の仕事では、仮の切り方で切ってみて、残った人を調べ、その理解から切り方を直す、という往復を何度も繰り返します。

差が生まれるのは、ほぼすべて「市場の切り取り方のセンス」です。

ただしこれは、切り出しのほうが大事だという意味ではありません。いい切り方は、深い理解からしか生まれないからです。

事例:単独では入れなかった企業に、地方新聞社と入る

タイミーでマーケティングを担当していたとき、法人の新規獲得で一つの壁がありました。オンライン広告や営業だけでは、どうしても届きにくい企業がいたのです。

IT企業は、オンラインのチャネルには強い一方で、地域に根ざした対面の関係(オフラインのチャネル)を持っていません。そして、そうした関係の中でこそ動く、地域の中堅規模の企業が一定数いました。

いま振り返ると、これは市場の切り方を変えたということでした。「オンラインで届く企業」ではなく、「地域の信頼できる相手からの話なら聞く企業」という切り方です。そう切ると、組むべき相手が見えてきます。地域で長く信頼を積み上げてきた、地方新聞社です。

地方新聞社には、地元企業とのつながり、地域での信頼、そして販売店という拠点があります。私は自分でつながりをつくり、双方にメリットがある形を何度も提案し直して、合意にこぎつけました。座組はシンプルで、新聞社から見込みの企業を紹介してもらい、その対価として新聞社に広告を出稿する、というものです。

結果として、中堅規模の企業を十数社、新たに獲得できました。新聞社の販売店を起点に、タイミーのサービスを案内するモデルもつくっています。

この事例で効いたのは、新しい広告手法ではありません。「誰が、誰の話なら聞くのか」という理解から、市場の切り方を変えたことです。地方の企業とどう組むかは、アライアンスとはで詳しく書く予定です。

戦略を立てるときの5つの手順

最後に、私が実際に戦略を考えるときの手順をまとめます。

手順やることよくある失敗
1目的と条件を書き出す目的が「認知拡大」のように曖昧なまま進める
2市場を切る角度を、できるだけ多く出す性別・年齢・地域だけで切る
3残った人を、具体的に理解しにいく資料やデータだけで分かった気になる
4理解から、切り方を直す最初の切り方に固執する
5その人に向けた打ち手を決める手順1〜4を飛ばして、施策から考える

フレームワークは、手順2と3の抜け漏れを防ぐために使えば十分です。STP分析の使い方はSTP分析で終わらせないで書いています。

よくある問い

マーケティング戦略とは、簡単に言うと何ですか?

どの市場(ターゲット)で戦うかを決めることです。具体的には、市場を切り出すことと、切り出した人を深く理解することの2つで成り立っています。

フレームワーク(STP・3C・4Pなど)を埋めれば戦略になりますか?

フレームワークは考えるための道具で、埋めたこと自体は戦略ではありません。どの角度で市場を切るか、残った人をどこまで理解しているかが、戦略の中身です。

切り出しと理解は、どちらから始めるべきですか?

どちらか一方を先に終わらせるものではありません。市場を理解していないと切り方が見つからず、切り方が決まっていないと何を理解すべきかも定まらない。行き来しながら精度を上げていくものだと考えています。

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