マーケティングマイオピア(近視眼)とは:自社の市場を狭く定義する落とし穴
結論
マーケティングマイオピア(近視眼)とは、自社の事業を「売っている商品」で狭く定義してしまい、顧客が本当に求めているものや、本当の競合を見失うことです。防ぐには、市場を商品ではなく、顧客の目的で定義し直す必要があります。
- マーケティング学者セオドア・レビットが1960年に示した考え方。鉄道会社が自らを「鉄道事業」と定義し、輸送の需要を他に奪われた例で知られる
- 市場を商品で定義すると、競合も商品の似た会社しか見えなくなる。顧客の目的で定義すると、本当の競合と、新しい市場が見えてくる
- ニュースアプリの中で音声の事業を立ち上げたことは、事業を「アプリ」ではなく「届けるもの」で捉え直すことでもあった
マーケティングマイオピア(Marketing Myopia)は、日本語では「マーケティング近視眼」と訳されます。マーケティング学者のセオドア・レビットが1960年に発表した論文で示した考え方です。
一言で言えば、自社の事業を「売っている商品」で狭く定義してしまい、顧客が本当に求めているものを見失うこと。この記事では、この考え方を、私が大事にしている「市場の定義」の視点から読み直します。
鉄道会社は、何を売っていたのか
マーケティングマイオピアの例として最もよく知られているのが、アメリカの鉄道会社の話です。
鉄道会社は、自分たちの事業を「鉄道事業」だと定義していました。けれど、顧客が求めていたのは鉄道ではなく、人や物を運ぶこと(輸送)でした。輸送の需要そのものは伸びていたのに、その需要は自動車やトラック、飛行機に移っていった。自らを「輸送事業」と定義していれば、別の打ち手があったはずだ、というのがレビットの指摘です。
顧客が買っているのは、商品ではなく、商品で叶えたい目的。
マイオピアは「市場の定義」の失敗
マーケティングとはで、私はマーケティングを「市場(=ターゲット)を定義し、目的を最大化する行為」と書きました。マーケティングマイオピアは、この市場の定義を商品の側からやってしまったときに起きる失敗だと考えています。
| 定義の仕方 | 見える競合 | 見えなくなるもの |
|---|---|---|
| 商品で定義する(例:鉄道事業) | 他の鉄道会社 | 自動車・飛行機など、同じ目的を満たす別の手段 |
| 顧客の目的で定義する(例:輸送) | 目的を満たすすべての手段 | ― |
商品で定義すると、競合も「似た商品を売る会社」しか見えません。顧客の目的で定義すると、本当の競合と、まだ手をつけていない市場の両方が見えてきます。
事例:ニュースアプリの中で、音声を始めた
Gunosyにいたころ、音声コンテンツの新規事業を担当しました。探索の末、ニュースアプリ「グノシー」の一つの機能として展開することで合意し、「グノシーラジオ」として立ち上げています。
機能の開発からコンテンツの調達までを担当し、ラジオ局各社を自分で回って番組の提供を受け、常に100を超える番組がある状態をつくりました。聞いた人がどれだけ聞き続けるか(聴取継続率)は最大70%に達しています。
この事例をマイオピアの視点で読み直すと、ニュースアプリを「記事を読むアプリ」と定義していれば、音声は事業の外に見えます。「情報を届けるもの」と捉えると、耳で届けるという市場も、同じ事業の中に入ってきます。
例で考える:町の写真館は、何を売っているのか
たとえば、町の写真館を考えてみます。
| 定義の仕方 | 見える競合 | 打ち手の例 |
|---|---|---|
| 「写真を撮る店」 | 近くのほかの写真館 | 撮影の料金や、仕上がりの品質で競う |
| 「家族の節目を残す場所」 | 写真館、スマホでの撮影、記念の旅行、家族で集まる食事会 | 撮影のあとに家族で過ごせる場をつくる、毎年同じ日に撮る習慣を提案する |
「写真を撮る店」と定義すると、競合は近くの写真館だけに見えます。けれど、スマホで誰でもきれいな写真が撮れるようになった今、顧客が写真館に求めているのは、写真そのものより「家族の節目を、ちゃんと残すこと」かもしれません。そう定義し直すと、競合の範囲も、打てる手の範囲も変わります。
マイオピアに陥っていないか確かめる3つの問い
- 顧客は、何のために私たちを使っているか:商品の機能ではなく、それで叶えたい目的を一文で書く
- その目的を満たす、別の手段は何か:業界の外にある手段まで含めて挙げる。それが本当の競合
- その目的のために、私たちがまだ届けていないものは何か:そこに、新しい市場がある
ただし、広げすぎにも注意が必要です。「人を幸せにする事業」まで広げると、何も決められなくなります。顧客の目的で定義しつつ、会社ができること・やりたいことという条件の中で、市場を切り取る。それが、マイオピアを避けながら戦略を立てるということです。切り取り方は、マーケティング戦略とはで書いています。
よくある問い
マーケティングマイオピアとは何ですか?
自社の事業を、売っている商品やサービスで狭く定義してしまい、顧客が本当に求めているものを見失うことです。マーケティング学者のセオドア・レビットが1960年の論文で示した考え方で、「マーケティング近視眼」とも呼ばれます。
マーケティングマイオピアの有名な例は何ですか?
アメリカの鉄道会社の例が知られています。鉄道会社が自らを「鉄道事業」と定義していたため、「輸送」という顧客の需要が自動車や飛行機に移っていくのに対応できなかった、という説明です。
マーケティングマイオピアを防ぐには、どうすればいいですか?
自社の事業を、商品ではなく顧客の目的で定義し直すことです。「私たちは何を売っているか」ではなく「顧客は何のために私たちを使っているか」を問い、その目的を満たす他の手段も競合として見ます。
出典
